外務省が消した日本人―南米移民の半世紀 2001/若槻 泰雄 (著) 毎日新聞社

戦後の移住政策で、「自営開拓移民」として1万6000人もの日本人移民を南米の密林に捨てた外務省。その無情な行政と現地で格闘し続けた著者が、今なお変わらぬ官僚たちの腐敗と行状を証言する。


この本の著者・若槻泰雄氏には思い入れがある。
私が初めてこの人の本を読んだのは、排日の歴史―アメリカにおける日本人移民 (1972年)若槻 泰雄 (著) (中公新書)。
感動した。日本人はこんな待遇を受けてきたのかという驚きがあった。

戦争の原因はこれではないかという、戦後教育を受けてきた自分に懐疑の念が浮かび上がってきた。
けっきょく、古本屋をめぐり、図書館の閉庫から借りだしたりして、全著作を読むことができた。


1954年(昭和29年)というから、黒澤明の「七人の侍」が作られたときだ。GHQの日本占領もようやく終わったときだ。
著者が海協連という日本人の海外移民をバックアップするためできた外務省の外郭団体に就職するところから始まる。
それがとんでもない天下り組織だった。


以来、1963年に免職されるまでの9年間、文字通り、粉骨砕身して親身に移住した人たちの声を聞き取り、絶望し、こうやって実名で生々しい本を書くに至った軌跡が語られる。

結局のところ、先方の調査を行わず、ただただ人数合わせで送り込んだものだから、著者が実際に現地へ行ってみての絶望的な状況の描写がすごい。

ブラジル、アマゾン川中流マナウス市のマナカブルー移住地。じっさいに現地へ着いてから、労賃が60パーセントに減額するという通知を受けて日本政府から裏切られた人たちである。

パラグアイ、そしてボリビア
南米屈指の最貧国である。

1960年度の国民所得の図表が載ってるが、日本を100とした場合、ブラジルが南米の中でも良くて46。パラグアイは40.ボリビアに至っては、28でしかない。

 

水は高いところから低いところへ流れる。
南米移民というのはこの絶対原則に外れた地域への、いわば「棄民政策」であった。
教育、医療どころではない。
縄文時代のような暮らしぶりである。


若槻 泰雄氏は正義と熱血の人である。
日本に帰国してから、様々な方策をやってみるも(自分を総務部長にするとか提言)、しょせん「たった一人の反乱」に過ぎず、社会党の議員に使嗾させたウソの使い込みの問題を国会で取り上げられたりして妨害にあい、けっきょく、クビを斬られるとこまでが描かれる。


裁判になったから、聞いたことのある人もいるだろうドミニカ移民というのもこの団体が手掛けた無責任移民の一つである。

日本が豊かになって、こういう問題はなくなったが、この団体はJICAに引き継がれ存続しているという。


農政学者・川島博之氏の、日本列島7000万人扶養限界説が説得力ある。

「『食糧危機』をあおってはいけない」、文藝春秋、2009年。
「食料自給率」の罠 輸出が日本の農業を強くする、朝日新聞出版、2010年。

 

日本列島は、食糧を輸入しなければ7000万人が扶養の限界だという。
確かに江戸時代には3000万人で固定して推移してて、間引きとかやって、やっとのこと維持してた。
耕地開拓もよくやっていたが、それも大正時代には限界に達したとのと。
明治になって急に開国して、国内で食えなくなった人たちが出始めて、政府も海外移民を後押し。
本書で書かれたような悲劇もたくさん産んできた。

 

何より、日本が大東亜共栄圏なるものを始めたのだって、これが、日本の人口増加を解決するためというのが最も大きな原因でなかろうか。

現在、1億2500万人の日本国。
日本にとって人口の適性がどれくらいかかは誰にもわからない。
人口が減って困る人の意見ばかり取り上げられているが、適正な未来は誰にもわからない。


併せて読みたい

 

「在中二世」が見た日中戦争 2002/8/1若槻 泰雄 (著)芙蓉書房出版

満州事変から太平洋戦争までの激動の時代、「外地」に住む少年が見たものは…?学校生活、軍国主義教育の浸透、中国人・欧米人との関わり、日本軍の蛮行、天皇制への疑問、日本人のアイデンティティなど、歯に衣きせぬ筆致で「大人の論理」を徹底的に批判する。
中国山東省青島に生まれ、17歳までを過ごした「在中二世」の著者が、戦争・中国人・日本人・天皇を問う。満州事変から太平洋戦争までの激動の時代、「外地」に住む少年の眼に映ったものとは?


韓国・朝鮮と日本人 韓国・朝鮮人の嫌いな日本人 日本人の嫌いな韓国・朝鮮人 若槻 泰雄/著 原書房 1989.10
韓国・朝鮮人の憎悪はなぜかくも執拗か。欧米諸国による植民地支配の事例との広い比較の視点から、最も今日的な課題に真正面から取り組んだ異色の日本人論。

これも凄い、次回取り上げたい。


原始林の中の日本人 南米移住地のその後 若槻泰雄/著  中央公論社 1973中公新書 329

その後の、南米日本人移民たち。「外務省が消した日本人―南米移民の半世紀 2001/若槻 泰雄」、後日談。さすがに暗くなる。暗然とした思い? それでもこうやってちゃんとフォローしてるのはさすがとしか言えない。