「ユダヤは色々と面倒くさい…」 ユダヤ問題と日本の工作 海軍・犬塚機関の記録 著者 犬塚きよ子 東京 日本工業新聞社1982.9大手町ブックス

本書の筆者はかの海軍・犬塚機関、犬塚惟重大佐の奥方であり、第一秘書である。
犬塚氏は日本帝国の対ユダヤ人対策の最前線にいた人物であり、その秘書であった著者の証言は非常に重要なものと言えるだろう。
ユダヤ人を排撃しようとするナチとのせめぎ合い、陸軍の無理解、反ユダヤ利権の存在、反日ユダヤ財閥(サッスーン財閥の当主について)の実態…
当事者でなければ知らない事情が盛りだくさんである。

満州ユダヤ自治政府を建設しようとした「フグ計画」が犬塚大佐たち当事者によるネーミングではなく、講演会のひとくさりをユダヤ人たちが勝手にプランだと言って回って心外だというようなことが書かれている。
そこに前回紹介した若き日のラビ・マーヴィン トケイヤー氏も絡んでくる。

ユダヤも一枚岩ではなく、反日ユダヤ人も多いことがよくわかる。サッスーン財閥の当主、ステファン・ワイズ神学博士(アメリユダヤの最高権威、ルーズベルト大統領の親友!)
興味深いのは、ヒトラーについての認識。
「戦後、私たちは600万名ものユダヤ人が、アウシュビッツその他の強制収容所ナチスによる虐殺を被った事実を知って慄然としたが、 二千年来、亡国の民ながら世界一の硬い同族意識と、巧みな処世術を身に着けていたはずのユダヤ人がこの危機をなぜ避けられなかったかいう点も 大きな疑問であった。それはユダヤ資本家のヒトラーに対する認識の甘さが先見の明を誤らせたのだと思われる。
 ヒトラー内閣が成立する1933年までナチスを資金的に後押ししたのはロスチャイルド家を筆頭とする欧州ユダヤ大財閥であり、ドイツの再軍備は当時世紀の死の商人といわれたギリシャユダヤ人のザハロフを通じてのチェコなどの軍需産業である。」

それはかの、ユダヤ人作家ジョージ スタイナーの「ヒトラーの弁明―サンクリストバルへのA・Hの移送」を想起する。
ナチ・ハンターたちにアマゾンのジャングル奥地で捕われ,目的地であるサンクリストバルへの道を阻まれ,急遽ジャングルのなかで裁判を開くという異常事態のなかで,90歳のヒトラーは若いユダヤ人たちを前にして自己弁護の演説をぶち上げる。
なぜヒトラーが「最終的解決」としてユダヤ人絶滅を策謀したか。
ヒトラーのあげた理由は人間に対する三つの理想という恐喝だ。
唯一神の発明,キリストの愛他主義,そしてマルクス主義
「あなたの同胞のためにあなた自身を犠牲にせよ。万民が平等になれるようにあなたの財産を放棄せよ。あなた自身をハンマーで打ち,鋼のように強固にせよ。感情や忠誠心や慈悲の念を押し殺せ。親や恋人を弾劾せよ。この世で正義が達成されるように。歴史が成就され,社会からすべての不完全が排除されるように」

これがヒトラーの言うマルクスの説教だ。「三度ユダヤ人は,私たちに超越の脅しをかけた。三度ユダヤ人は,私たちの血と脳を完全というバクテリアに感染させた」
何が理想を追い求めよだ。何が超越せよだ。人間にできもしないことを押し付けて,苦悩のどん底に追い落とし,その苦しみから這い上がれないものは地獄に突き落とす。だから,ユダヤ人は排除しなければならなかったのだ。そして人間らしく,人間本来の欲望を満たす必要があったのだ。