縮みゆく人間 Kindle版リチャード・マティスン (著), 吉田誠一 (翻訳) 早川書房 1956

久々に再読して感動を新たにした。
しばらく、お付き合い願いたい。
あのスピルバーグ監督のデビュー作「激突」(1971)の原作者でもある。
ゾンビものの嚆矢でもある傑作、「I am regend 吸血鬼 地球最後の男」もほぼ同じ時期1954年に書かれている。


核実験によるスコールと、街中で噴霧された殺虫剤を浴びたスコット・ケアリーは、肉体が縮んでいくという恐るべき事態に直面する。あらゆる治療の甲斐なく1日に1/7インチずつ縮んでいくスコットはある日、ひょんなことから家の外に放り出され、鳥の襲撃を受け、逃げるうちに地下室に落とされてしまう。そこに待ち受けていたのは猛毒をもつ一匹の黒いクモだった。

 

妻も子も失われ、人間世界から隔絶された別世界のなかで、スコットは針を手にして戦い、摩天楼のようにそびえ立つテーブルの上に置かれたクラッカーと漏水で飢えをしのぎながら、孤独な生存競争を続けてゆく。作者マティスンが描いた、この世ならぬ恐怖と孤独と絶望の世界

 

ある日、ひょんなことから家の外に放り出されてしまったスコットは鳥の襲撃を受け、逃げるうちに地下室に落とされてしまい、家族からも隔絶されてしまう。一寸法師のようになり、体にスポンジのかけらをまとった彼は、執拗に襲いかかる蜘蛛と針を使って戦い、高層ビルのように聳え立つ家具の上に置かれたクラッカーと漏水で飢えをしのぎながら、孤独な生存競争を続ける。

そして体長がいよいよ1/8インチとなった日、スコットが死んだと思い込み家を去っていく家族に、彼は懸命に自分の存在を訴えるが気づいてもらえず、絶望しながらも、自分の人生に誇りを持ちながら深い眠りにつくのだった。


物凄くリアルな冒険譚になっていることに感動した。
細部がリアルである。
性欲のこと、妻との性生活のこと、小人になっても性欲は持続する。
そんなこと、考えてみれば当たり前だ。

 

「…ある夜、かれは結婚指輪を外した。
それに紐をつけて首から下げていたのだが、今では重くなりすぎた。
まるで大きな金の輪を持ち歩いている感じだった。」

 

ワンアイデアでここまで引っ張れるのには構成の妙が光る。
黒澤明の「生きる」を思い出した。

地下室ですでに小人になってクモと格闘し、食べ物を得るために奮闘する姿と、小人になりかけのとき、妻との軋轢、病院通いの焦燥の日々、見世物になった過去が同時並行で描かれる。


「…自分の存在が消滅するときのことを思ってあれほど苦しんでいた、その恐怖の瞬間が近づいたのに、その夜がやってきた今ーー最後が訪れようとしているまさしくその夜にーーまったく恐怖を覚えないのは奇妙であった。数時間後に、彼の一生は終わりを告げる。彼はそれを知っていた。それでも、生きていることがうれしいのだ。」

 

「確かに、この作品には、そうした陳腐な、ロウレベルのセンスオブワンダーを人に押し付けるところが全くなく、逆に、異常な状況に陥って、這い上がるすべを失った救いのない主人公のーーいわば新しい次元での心境が、異常なまでの共感を、読む者の胸に呼び起こす。」福島正実の巻末解説より


リチャード・マシスン
1926‐。アメリカ、ニュー・ジャージー州生まれ。1950年に『F&SF』誌に発表した短篇「モンスター誕生(男と女から生まれたもの)」でデビュー。『地球最後の男』(1954年)『地獄の家』(1971年)『ある日とこかで』(1975年)など映画化された作品も多く、また「ミステリーゾーン」などでTVとも縁が深い。息子のリチャード・クリスチャン・マシスンも作家や脚本家として活躍中


併せて読みたい

アイ・アム・レジェンド  リチャード・マシスン/著 尾之上浩司/訳  早川書房2007.11ハヤカワ文庫 

運命のボタン リチャード・マシスン 尾之上浩司/編 伊藤典夫/訳 早川書房2010.3ハヤカワ文庫

13のショック リチャード・マシスン 吉田誠一/訳 早川書房 異色作家短篇集

激突! リチャード・マシスン1973.3 ハヤカワ文庫