世界史のなかの明治維新 (岩波新書 黄版) 芝原 拓自 1977 二百数十年つづいた幕藩体制を一挙にくつがえし、日本の近代国家を産み出した明治維新。この歴史的大変革をひき起したものは何であったか。 19世紀後半の世界とアジア・日本をめぐる国際情勢との密接なかかわりを明らかにしながら、幕府の倒壊、維新政権の樹立から自由民権運動生成期にいたる 歴史過程を描き出す。

世界史のなかの、「奇跡としての」明治維新
わたしの読後感である。
苦労があったとかそういうレベルではない。
四面楚歌? それとも違う。
とにかく何もなかったのだなという印象。おまけに土台自体なくなってるのだから。
明治の最初の10年間が凄すぎる。

安政五ヶ国条約で、対外的に幣制自主権も奪われていたため、一方的に金銀が海外に流出。国としての売り物は繊維(糸)だけ。それも初めから海千山千の欧州勢力に翻弄される。全国で多発する農民暴動。とにかく食えないのだから暴徒化するよりない。

 

追い打ちをかけるように神戸事件(明治元年1月)発生。
新政府から西宮警備の命を受けた備前藩兵2000人が神戸を通行中、前方を横切る外国人に発砲。しかもかれらは居留地にまで外国人を追撃して英仏米の公使館衛兵と戦闘になったことで各国代表はただちに日本の艦船5隻を捕獲。
然るべき措置を取ると明治新政府に宣言した。
つづいて起こった堺事件(明治元年2月)。
大阪市の取り決めで外国人に開放された堺の海岸調査に当たっていたフランス兵士とこの地を警備していた土佐藩兵が衝突。フランス兵は猛攻され、死者11名、負傷者5名に達するほどの被害を出したのである。
結果、賠償につぐ賠償。ますます新政府の国庫が空になる。

その上、ないない尽くしの国家予算のなか、御一新というべく教育制度改革、軍事力整備、地方自治(地租改正)、鉄道建設と金のかかることばかり。
どうやってこの苦境を収拾したのかといえば、
新政府は財政補填のため、2年間に4800万円もの「太政官札(金札)」を発行し、またみずから贋貨を発行して、諸藩や奸商の贋貨乱造を招いていた。
これらが国内の経済を混乱させ、特に外商や各国公司団からの厳重な抗議と圧力をうける原因となっていた。
これを打開すべく、明治9年に「金禄公債証書発行条例」を布告して、華士族の全家禄を有償撤廃し、ついで、「改正国立銀行条例」をつくり、
これら公債証書を資金源として銀行を設立することを公認した。

 

こういう経過を眺めると苦し紛れに対外進出するのもやむを得ない気がする(明治8年江華島条約締結)。

小さな本だが内容は非常に濃い。是非ともすべての高校生に読んでもらいたい。副読本にして読ませるべきだとも。
世界史のなかの、「奇跡としての」明治維新
優れた先人たちに感謝したい気持ちになること請け合いである。